2011年 10月 23日
ドラマ雑感...その1 明治の女(ひと) |
最近、NHKの番組のいくつかにはまりました。
そのうちの二つをご紹介。
まずは、既に終了してしまったのですが「神様の女房」。
あの世界の「松下」(現パナソニック)を創業した松下幸之助夫妻の物語でした。
既に有名な幸之助さんに関しては、けっこう神経質な「しんきくさい」人で、奥さんに手を上げる暴君な
一面もあって、ドラマを見ていて「へぇ~、意外~」な男性だったんだ...というのが感想です。
...というか、ドラマを見ている限りでは、この女性がいなければ、「世界の松下」は無かったのでは
ないかと思わせてしまった幸之助さんの「奥はん」...松下むめのさん。
常盤貴子さんが、溌剌と、そしてしっとりとした美しさで演じているのが印象的でした。
淡路島で海運業を営む家に生まれたむめのさんは技芸学校を卒業した後、花嫁修業を兼ねて
船場の大きな商家へ行儀見習いに行ったそうです。
女学生の頃はテニスが得意だったとか...
明治生まれの私の父方の祖母も、大阪の女学校時代、テニスの選手でした。
水泳も得意だったそうで、かなりのおてんばだったようです。
その祖母も、女学校を卒業した後、事業を営んでいた曽祖父のお得意様だった住友本家の
大阪のお屋敷に、花嫁修業のための行儀見習いに上がります。
松下むめのさんとここまでは似ているのですが...裁縫など家事全般が得意だった
むめのさんと違って、祖母は家事が...特に「お裁縫」が大の苦手でした。
当時の住友本家には、祖母のような行儀見習いの若い娘さんが何人もいたそうです。
お裁縫は、そういう「お仲間」にお願いして、その代り、テニスや水泳で鍛えていたからか
身体を動かすのだけは得意だった祖母は、「お掃除」を引き受けていたそうです。
「そやから、私はぞうきんがけだけは得意なんや」と後年、私に話してくれました。
(でも、実は祖母は「掃除」が好きだったわけではなく、「洗濯」の方が好きだったみたいでした)
私のお裁縫が苦手で、掃除より洗濯の方が好きだという部分...実は祖母に似ているのでは
ないかと、いつも言われています(笑)
話が逸れましたが、ドラマで松下むめのさんの生涯を追っていると、祖母を思い出して、とても
懐かしくなりました。たぶん、松下夫妻は、祖父母より少し上の世代だと思います。
「いろいろ縁談があった中で、一番条件の悪かった」幸之助さんを選んだむめのさんと違って、
私の祖母は、お針のお稽古で一緒だったお友達のお兄さんと結婚します。
その人が私の祖父です。
祖父は、曽祖父(祖母の父)と同じ和歌山の人で、和歌山市内の大きな商家の三男坊でした。
(幸之助さんも和歌山の人でしたね)
家格の釣り合いは、全く問題なかったようで、松下夫妻と違って、縁談はとんとんと進んだ
らしいです。
祖父は、大変な美男子で、今でいうところの...超「イケメン」でした。
私が記憶している祖父は、どこから見ても「お爺さん」でしたが、ある時、祖母が御仏壇の
引きだしから、取り出して見せてくれたのが、軍服姿が凛々しい青年の写真でした。
若き日の祖父だったわけですが..「おばあちゃん、この人誰?」と聞いてしまった私。
「おじいさんや」
「かっこいい...」
祖母は大切なものは、すべてその御仏壇の引きだしにしまっていました。
だから、その写真も、母にとって大切なものだったのでしょう...
祖母は何も言わなかったけれど、もしかしたら、祖母が祖父のことを好きになってしまって、
縁談を進めてもらったのかなと思ったり(笑)
とにかく、まったく何も無い幸之助さんと結婚したむめのさんと違って、祖母が結婚した人は、
三男であっても、結婚の際に相当の財産を分けてもらって、生活には全く困らない「ぼんぼん」
でした。おそらく祖父はそれまで働いたことはなかったのではないかと思います。
祖父母の間には、私の父をはじめ、たくさんの子どもが生まれます。
でも、そういう恵まれた環境は、その後の戦争によって一変し、神戸の空襲で祖父母は何もかも
失ってしまいます。
幸いに家族は、その前に、祖母の実家の方へ疎開していたので、家族は全員助かりましたが。
戦後の祖父は、気力を失ってしまったようでした。
大勢の子どもを抱えた祖父母の生活は、戦後、ある時期まで大変だったようです。
何せ、苦労知らずの祖父でしたから。
祖母は、そんな祖父を支えて、家族を養っていました。
疎開中から実家の庭を畑に変えたり、鶏舎を建てて鶏を飼ったり。
私が記憶する祖母は、本当に逞しい女性でした。
そこはむめのさんに似ているかなと思いました。
元来、女性には環境に順応できる能力が備わっていて、男性よりも「変化」に対する適応力が
高いのでしょう。
でも、本質は「ぶれない」、「変わらない」のが、むめのさんでした。
成功した松下夫妻は、一人娘に大変な家柄の出身の男性を婿に迎えます。
むめのさんは、そのお婿さんにも決して卑屈になることなく、松下家の家風を教え込んで
いかれたようでした。
ドラマの中で、帰宅したお婿さんが、むめのさんの部屋の外で帰宅の挨拶をするのですが、
むめのさんは、立ったままのその挨拶を咎め、お婿さんにやり直しさせます。
広壮なお屋敷のお掃除を自分でなさっているシーンもありました。
子どもの頃から受け入れた社員のために、社員寮を作り、自らそこの寮母になって、親身に
面倒をみて、子どもに接するように優しくあたたかく、時には厳しく育てました。
成功してお金持ちになっても、本質を「変えなかった」女性、松下むめのさん。
惜しむらくは、御自身の実子が少なかったこと。
むめのさんに、もし息子さんがいらしたら、どのように育てられたのか...非常に興味があります。
...と、思うのは、昨今たびたびニュースになっている、日本を代表する某製紙会社の御曹司の
会社のお金の流用問題。
創業家の直系のようで、日本の最高学府を卒業された秀才のようですが、とんでもない金額を
会社から流用していたそうで。
使いこんだお金は、本人と親族で弁済されるそうですが...
その会社で働く人たち、やりきれないでしょうね。
運よく創業家に生まれた人には最初から約束された地位がある。
でもその代り、従業員に対する責任を背負って生まれてきた...と親から教わってこなかったの
でしょうか...
松下幸之助さんの成功には、「人間、学歴なんて関係ない」という言葉が思い浮かんできます。
今回の某企業の御曹司の事件は、「人間、学歴なんて関係ない」の反対の意味のケースに
相当するのでしょう。
あらためて、学問より前に、まず「ひとりの人間を育てる」という親の教育、そして親自身にも
相当の見識と覚悟が大切なんだと思った次第です。
秋の主菓子と干菓子。どちらも「紅葉」を表しているのです。
by toco-luglio
| 2011-10-23 21:58
| すてきな人たち